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錯体化学会 会長 あいさつ

錯体化学会会長北川 宏

令和2年度に本会の会長を拝命した北川宏です。着任にあたり、錯体化学への思いと本会発展の抱負を述べさせていただきます。

日本の錯体化学の歴史は長く、錯体化学の創始者であるAlfred Werner先生(チューリッヒ大学、1913年ノーベル化学賞)のもとに柴田雄次先生(東京大学)が留学して日本に錯体化学をもたらしたのは大正2年(1913年)、柴田門下生の槌田龍太郎先生(大阪大学)が「分光化学系列」を発見されたのが昭和13年(1938年)です。昭和17年(1942年)に最初の錯塩化学討論会が開催され、それ以来、錯塩化学研究会、錯体化学研究会を経て、平成14年(2002年)より錯体化学会として活動を行ってきました。令和2年10月1日現在、正会員730名、名誉会員33名、法人会員8社、学生会員236名で、総会員数は1,007名であり、国際的にも最大の錯体化学者のコミュニティといえます。毎年秋に開催される錯体化学会討論会には、1,000名を超える参加者が集い、最新、最先端の研究の情報を交換し、議論する場となっています。今年の錯体化学会討論会はコロナ禍のためにオンライン開催となりましたが、総会やオンライン懇親会も含めて滞りなく実施出来たものと思います。開催関係者に心から御礼申し上げます。
さて、錯体化学は、今、新たな展開期にあります。配位結合や金属-金属結合で積みあがる集積型金属錯体、かご型分子や巨大分子、一次元、二次元、三次元の周期的・規則的構造の配位高分子や多孔性金属錯体、配位プログラミングされた界面・表面錯体など、幾何構造の設計性や自在性が最先端の構造解析法の進歩と相まって新物質が続々と誕生し、錯体分子骨格のみならずナノ空間の化学が多様な基礎科学から応用技術へと発展しています。また様々な有機金属錯体が高活性な触媒機能を示したり、生体系で活躍する金属タンパク質が特異な化学的挙動や反応を示すように、金属中心とその周りの反応場を配位化学を中心にデザインすることによって、新たな物質変換やエネルギー変換が可能になり、現在、非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質化学が展開されています。さらに、遷移元素のd、f軌道と配位子の組合せで生ずる特異な性質は、光、磁気、電場、熱、圧力などの外場と相互作用して、新たな物性物理・化学へと発展しています。それらと呼応する理論化学も新たな手法の開発やインフォマティクスとの融合、そして計算速度の飛躍的向上により、汎用な研究手段となってきました。これらの最先端の錯体化学の話題の多くが日本で生まれてきたことは、本会の果たしている役割が大きいことを物語っています。
本会は最近10年間、4本の柱(国際性、若手支援、多様性、発信力)を中心に改革を進めてきました。いずれも極めて重要な柱であり、今後も継続していきます。その中で国際性に関しては、急速な進展がみられます。第65回討論会(奈良女子大学)から博士課程以上の学生や研究者の口頭発表は英語になり、第70回討論会(オンライン開催)では口頭発表の62%が英語で行われました。また、国際賞、国際奨励賞による優れた外国籍錯体化学者の顕彰や、二国間シンポジウムと討論会との一体化により、国内外の外国人研究者、学生の参加が増えてきました。平成30年には第43回錯体化学国際会議(ICCC2018)が仙台で開催され、1967年の東京および日光、1994年の京都に引き続き、日本での開催は3回目となりました。60のセッションと2,500余名の参加者による巨大な会議となり、日本の錯体化学のプレゼンスを世界にアピール出来たと思います。今後、この国際化への取り組みをさらに充実させ、定常的に討論会に参加して本会の会員となる国外の研究者が多くなることが、長い歴史を有する錯体化学会の使命であり、錯体化学とその関連分野の発展に大きく寄与するでしょう。別の柱である若手支援も極めて重要です。科学技術の核になる錯体化学を担う研究者が育つには、若手研究者や学生の啓蒙・育成をさらに充実することが必要です。錯体化学会には、平成17年に融合した錯体化学若手の会があり、若手研究者が運営する支部勉強会や夏の学校などの独自の活動と討論会でのシンポジウム主催や本会理事会・将来計画委員会への参加など本会と連携した取組みを行っています。若い時の色々な仲間との交流は人生の財産であり、今後、諸外国や他分野の若手研究者との交流を活発にすることが重要な施策になると考えます。錯体化学分野の学生が社会に出ても、錯体化学会に関わって頂けるような取組も行いたいと思います。多様性に関しても、錯体化学における女性比率の向上や異学術分野との融合、マイノリティ分野の敬重は勿論のこと、地方大学や私立大学の活力が大きくアップすることが日本の錯体化学の発展に欠かせないものと考えます。
錯体化学が好きな研究者の集いとして発足した本会が、その精神を継承しながらも純粋な基礎科学から社会に貢献する応用技術まで関わる組織に発展することを期待しています。そのためにできる限りの努力を行ってまいります。会員の皆様には、今後ともご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

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